+ おくさまは18歳 9 +   パラレルSS/にゃみさまのターン

 

 

 

 

こんなに楽しいことは久しぶりだ。
ずっと憧れていた彼氏との遊園地デート。付き合い始めてからだともう半年以上経つが、郁はまだ堂上と遊園地に来たことはなかった。高校三年生になってもトレーニングがあった郁と不定休の堂上では、遊園地にまで来る時間はなかなか取れなかったのだ。そして、郁が卒業してからは堂上の休みに一緒にいられたが、結婚の準備やら何やらで忙しく、デートどころではなかった。
図書基地や大学とは遠いところに来た甲斐もあって、一目を気にせずにいられたことも良かった。手を繋いで歩いたり、いかにもカップル用と言った狭い乗り物に乗ることにはしゃぐ郁を見て、堂上は目を細めた。
「楽しいね!」
そう言いながらぎゅっと手を握ってくる郁を思わず抱き締めたくなる。官舎の部屋で穏やかに微笑みあう日々は最早なくてはならないものだが、たまには恋人気分ではしゃぎ回るのも悪くないなと堂上は思った。
そもそも郁はまだ18歳なのだ。離れている時間が耐えられなくて、どうしても一緒にいたくて結婚までしたが、その年頃らしい楽しい思いをさせてやりたい。

「あーあ、早く卒業したいなー」
唐突に郁は言った。
「そうしたら、隠す必要なくなってこうやってまたデートできるよね」
「ああ、そうだけどな」
堂上は苦笑する。
「まだ入ったばかりだろ。大学生活も楽しめよ。家事のこととか考えるよりそうしてくれるほうが俺も嬉しい」
「んー、でも今は篤さんのことを一番大事にしたいし……」
少し頬を赤らめながら呟く郁はかわいくて仕方ない。
「それは俺も同じだ。だからお前には今しかできないことをして欲しい」
そう言うと、郁ははにかんで笑った。
「ありがとう。大好き」
耳元で囁かれて堂上は耳朶を赤く染めた。こんな風に突然ドキリとさせられることはしょっちゅうだ。きっと一生こうやって心を囚われ続けて、俺はずっとこいつから離れられないんだろうなと堂上は思う。郁はそんな堂上の様子を知ってか知らずか、また未来に思いを馳せ始める。
「卒業して夫婦だって告白したら、図書基地の人たちびっくりするだろうなー」
顔を綻ばせてくすくす笑う。
「それで無事図書隊に入れたら、篤さんと一緒に本を守れるんだよね。早くそうならないかなー」
自分と共にある未来を喋り続ける郁が愛しい。堂上は郁の腰を強く抱いて自分の方に引き寄せた。



「遊園地、楽しかったのね」
「うん!久しぶりに恋人気分味わっちゃった」
堂上の事を話すとき、郁の顔はぱっと輝く。普段なら女のノロケ話なんて聞いてやらないところだけどね。柴崎は嬉そうに話す郁の顔をまじまじと眺めた。
郁の高校の友人は二人の関係を知っているらしいが、今の日常の中で二人のことを知っているのは本当にわずかの人間だけらしい。だとしたら、聞いてあげるのも悪くない。それに郁の話は自分でも意外なほど面白いと思えた。
「あそこは子供のころに連れて行ってもらって、すごく楽しかった覚えがあるんだあ。それ以来行った事なくてね、そんなところに好きな人と行けるなんて夢みたいだなあって」
柴崎なら到底口にできない乙女思考だ。
「いつか篤さんの子供ができたらあたしも連れて行ってあげたいなあ」
郁は夢見るような眼差しで続ける。
「ねえ」
柴崎は郁の方に僅かに顔を近づけた。あまりに純粋な子供のようなことばかり言うので、少し突っ込んでみたくなる。
「子供なんて言ってるけど、あんたたちってそういうことまだでしょ」
「……へ?」
郁は目に見えて固まった。
「子供ができるようなことよ」
柴崎は畳み掛ける。
「な、な、な……。何でわかるのお!?」
「しっ!大声出すんじゃないの!」
柴崎の言葉に、思わず立ち上がっていた郁はまた腰を下ろす。
「……なんで、わかっちゃったの……?」
「んー、前の会話からなんとなく」
郁は真っ赤になって下を向く。
「お、おかしいのかな?」
「まあ、人それぞれじゃないかしら。まだ18なんだし相手もわかってくれてるんじゃないかと思うけど」
あんたまだそんな覚悟ないんでしょう?柴崎の言葉に頷く。
堂上は郁の気持ちを大事にしすぎるほど大事にしてくれる。だから、その辺も理解して承知してくれているのかも知れない。
「あたしにはもったいないくらいの旦那様だよね」
ぽつりと呟くと、柴崎が郁の額を指先でピンと弾いた。
「あんまりのろけてんじゃないわよー。あ、手塚来たわね」
今日は司書講座が午前で終わり、その後の予定もないので、三人で武蔵野第一図書館に行く予定にしている。この間の埋め合わせということで柴崎と手塚を堂上に会わせるのだ。
堂上が仕事をしている姿を見られるのではないかと郁はちょっぴり期待していた。この間はそんなどころではなかったし、郁には部活があるのでなかなかそういった時間はとれない。毎日スーツで出かける姿を見る度かっこいいと密かに胸をときめかせているのだが、その姿で利用者の対応をしているところなんて見たらもうどんなに素敵だろうと想像を膨らませる。
「お前、何にやにやしてんだ?」
手塚が怪訝な顔で郁の顔を見た。
「な、何でもない!」
郁は頬に手をやって、緩んだ顔を元に戻す努力をする。
「あーもうやってられないわ。行くわよ、手塚」
柴崎はふうとため息をついた。




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(from 20120924)