+ おくさまは18歳 13 +  パラレルSS/にゃみさまのターン

 

 

 

 

 

「あ、あの…せ、背中….な、流しましょうか…?」
たどたどしい言葉に堂上は目を見開いた。顔は見えるが、郁はこちらを見ようとはしない。
「お前……、意味わかって言ってるのか?」
堂上は真剣な顔で聞いた。
「わ、わかってます!」
郁は真っ赤な顔をして答えた。これは、この反応は―――どうやら、本気のようだ。
だが。

「いや、背中はいい」
「え……?」
郁の心臓はドクリとなった。―――やっぱりあたしじゃダメだった?
「そういう意味じゃない」
堂上は苦笑する。
「風呂は明るいぞ。お前、直視できるのか?」
何をとは言われなくてもわかる。
「俺はもう出るからお前も風呂入れ。……待っててやるから」
「は、はい……」
ますます顔が火照るのを感じながら、郁はなんとか返事をした。





「ふう……」
ベッドに腰を下ろして堂上は大きく息を吐いた。
こういう日を待っていなかったと言えば嘘になる。だがまさか、郁の方から言ってくるとは思わなかった。郁は一緒にいられるだけで満足なようで、まるでそういったことを考えていないように見えたのだ。だが、郁も本当は待っていたのかも知れない。
俺はもしかして男として最低なことをしていたのか。そうも思うが、それよりもこれからのことに対する期待の方が大きい。

風呂からは郁が体を洗っているのであろう音がする。
これまで、その水音を聞くたびにこみ上げてくる欲望をどれだけ堪えようとしたことか。
背中を流すのはいいと言ったのは、昂ぶる自身を初めての郁に見せるのは忍びなかったということと、風呂を出るまで我慢できる自身がなかったからだ。



「あ、篤さん……」
ドアの開く音がして、郁がそろそろと顔を出した。いつもと同じパジャマ姿なのに、妙に艶かしく感じるのは恥じらう表情のせいだろう。
「おいで」
堂上はベッドに座ったまま郁を手招いた。郁は戸惑いながらもこちらに歩みを進めてくる。堂上の喉がごくりと鳴る。郁が隣に来るまで我慢ができずに、堂上は立ち上がって郁をそのまま抱きしめた。
「郁……」
少し震える唇にキスを落とす。ゆっくり順序を踏もうと思っていたのに、それはすぐに深くなって、気付けば郁の舌を夢中で絡めとっていた。
「ん……んん……」
郁は必死で堂上の肩にしがみついてくる。あえかな声が堂上の舌をどんどん激しくしていく。郁が崩れ落ちそうになったのを合図に、堂上は郁の体をゆっくりとベッドに横たえた。
「あつしさん……」
郁が堂上を見上げてぼんやりと呟く。堂上は郁の上に覆いかぶさりながら郁の瞳をじっと見つめた。そうして、また郁の唇に自分の唇を重ねる。



「ふ……あ……」
堂上のキスは止まらなかった。唇だけでなく、頬に、首筋に、胸元に。
熱い唇と舌が郁の思考を奪っていく。そうしている間に堂上の手が郁のパジャマのボタンをはずし始めた。もう片方の手はずっと握られたままだ。

堂上の手が郁の素肌に触れたとき、郁の体に電流が走った。
―――これはなに?
ビクリと体が跳ねて、溶けかけた思考が急にクリアになる。
こんなこと初めてだ。
なんだか自分の体じゃないみたい。
そう思うと同時に、恐怖心が胸をよぎった。その間にも堂上の手はもっと敏感な部分に向かってくる。

「いやっ!」
気付くと、郁は叫んで堂上の手を全力で振り払っていた。
「あ……」
そうしてしまってから、我に返って手で口を塞ぐ。
手を振り払った瞬間、堂上が傷ついたような顔を見せたのを郁は見逃さなかった。
「ご、ごめんなさい!」
自分でももう遅いと思いながらも郁は叫ぶ。だが、堂上の表情はますます硬くなる。
「いや……」
言葉を探すように堂上は口ごもった。
「謝らないでくれ。頼むから」
その言葉に郁の表情は歪んだ。
ああ、あたし、取り返しのつかないことしちゃったんだ。
涙が零れそうになるが、泣きたいのは堂上のはずだ。郁は必死で涙を堪えた。

堂上はその体を見ないようにしながら、郁のはだけたパジャマをさっと直した。そして、気を取り直すかのようにベッドに座りなおす。
「……まだ怖いんだろ。無理しなくてもいい」
「……でも……」
「抱きたいのは本当だ。でも、お前の覚悟ができてないなら俺はいつまでだって待つ。どんなお前も受け入れるつもりで結婚したんだ」
そう言って堂上は笑った。だが、その笑顔は辛い気持ちを必死で耐えているかに見えた。郁が何も言えないでいると、堂上は郁の頭をぽんぽんと叩く。
ひどいことをしたのに、傷つけたのはあたしの方なのに、何でこの人はこんなにやさしいのだろう。ちゃんとした覚悟もできていないのに誘うようなことをして。
自分の情けなさに頭を上げられない。
「ただ……、ちょっと頭を冷やしてきていいか。すぐに戻るから」
黙ったまま郁は頷いた。堂上はもう一度郁の頭をぽんと叩いて、上着を羽織って寝室から出て行く。



ベッドに横になったものの、郁は寝付けなかった。
しばらくして堂上が戻ってきたが、どうしていいかわからなくて寝たふりをする。





次の日はいつもと変わらなかった。
「おはよう」のキスをして、「行ってらっしゃい」も「おかえり」も「おやすみ」もいつものまま。
そして夜になると、堂上は郁を抱きしめて眠る。

何とかしなきゃと思いながらも何も言い出せないまま数日が過ぎて、そして堂上は2週間の奥多摩訓練へと旅立っていった。






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(from 20121008)