+ おくさまは18歳 14 +  パラレルSS/のりのりのターン

 

 

 

 

 

梅雨に入る前の日差しがまぶしい。緑薫る奥多摩の気温はまだ涼しいが、照りつける太陽は痛く隊員達に突き刺る。

今年度から特殊部隊に配属になった堂上と小牧にとっては初めての奥多摩訓練だ。
覚悟はしてきたけど、その体力的なきつさは半端じゃない。
日中の訓練を終わって宿泊所に戻ってくると、風呂と飯以外、動きたいとは思わなかった。

堂上は小牧と二人部屋をあてがわれた。
寮生活をしているときは同室だった二人だ、気心は知れているし、お互いの生活ルールや癖も分かっていた。
見る気も無いのに、置かれていたテレビの電源をいれる。何の内容かもわからない、ただバラエティ番組が映っていた。
「訓練がきつかったのは解るけど...なんでそんなに難しい顔して休んでるんだ?愛しの奥さんに会えないからか?」
「小牧」
誰が聞いているわけではないが、一応制止は入れた。
「二週間も会えないんだから、ちゃんと愛してきてあげたんでしょ?」
「馬鹿なこと言うな」
ぼーっと受け答えしていたせいか、つい本音が出た。
「堂上お前、まさか----------」
その声に堂上がようやく小牧へと視線を向けた。からかっている訳ではないらしい。
「------------ああそうだ」
俺はあいつの身体までもは、自分の物にはしていない。
それを聞いて小牧は小さくため息をついた。
「------------優しい、っていうか、大事にしすぎてる、っていうかさぁ」
役所も認めた夫婦で一緒に住んでるのに、いったい何に遠慮してるのさ?
小牧はあきれ顔で言った。


疲れた身体を休めるために、ただひたすら横になる。
瞼を閉じれば、郁のあのときの顔しか浮かばない。
------------刹那に怯えた顔。
------------泣き出しそうに歪んだ表情。
その二つが今の俺を疲れに加えて二重の苦しみとなって襲いかかる。


郁に、電話入れないと。
メールでもいい。今、入れないと、永遠に近づくことができないような、そんな苦しさが堂上に襲いかかる。あの日から数日、郁も忙しそうだったが、俺も珍しく奥多摩行き装備チェックなどでだいぶ帰宅が遅かった。
夕飯は郁が作ってくれていたが、一緒に食べることが叶わなかった位だ。
そしてゆっくり郁の気持ちを聞いてやることも出来ずにここへ来てしまったのだから。

------------十数回コール後、郁の携帯電話は留守電になった。
メッセージを入れることなく、堂上はあきらめて電話を切った。その後メールを試みようとするが、数文字入力したところで携帯が手から離れた。そしてそのままうとうと眠ってしまった...。





あの日から、結局堂上とゆっくり顔を会わせて話しをすることがてきないまま、堂上は奥多摩訓練へ出向いてしまった。
2週間。そういった訓練があることは前から知っていたし、覚悟もしていた。
だけど、こんな風にもやもやとしたまま、長く離ればなれになるとは予想もしてなかった。

------------みんなあたしがいけないんじゃん。

自分が堂上を傷つけたのだ。
そんなつもりじゃなかったのに。本当に心から、堂上とそうなりたいと思っていたのに。

奥多摩に着いたよ、と初日の夜電話があった。
小牧と一緒の部屋だから、ちょっと寮生活に戻ったみたいだ、と電話の向こうで軽く笑っていた。郁は大変だろうけどがんばってね、と答えて、おやすみと言った。

そして翌日はメールも電話もなかった。
着信履歴は残っていたが、入浴中で取り損ね、その後ウトウトとしてしまったので、気がついたときにはもう夜中を過ぎていてコールバックできなかった。
せめてメールでも送ろうかと思ったが、正直、何を書いていいかわからなかった。

一人になってみると広すぎる官舎の部屋。
顔を上げたときに目に入る結婚式の写真。微笑む堂上の顔を見るのは、今は辛くて、郁はとうとうフォトスタンドを、くるりと壁へ向けてしまった。
ごめんなさい、篤さん。もう少し、時間を下さい---------。




気持ちが晴れないまま、学校に向かう。今日は午後司書講座の日だな。
雨で練習は中止になったけど、筋トレぐらいしようかな、とぼんやり考えていたとき、同じ講座の子から声を掛けられた。
「笠原さん、今日講座のあと、みんなでご飯行くけど、一緒にどう?」
あ、そうか。篤さんいないから、夕飯別に作らなくてもいいんだ。
どうしようかな?と考えているときに、柴崎は寄ってきて郁の腕に絡みついた。
「今日はいないんでしょ、たまには行くわよ」
「う、うん」
「何、笠原さん彼氏?」
「ん、あの…」
「お兄さん、よね」
柴崎が助け船を出してくれた。
「ふうん、お兄さんと同居なんだー、偉いね、毎日ご飯作ってるの?」
「えっ、まぁ・・・」
「陸上もやってるのに偉いねー、笠原さんって。ゆっくりできるなら、いっぱい話そうよ」
そう声を掛けてくれ子の名前、実は覚えてない…後でこっそり柴崎に聞こう、そう思いながら郁は一緒に教室へと向かった。じゃあ後でね、と声を掛けて席に着く。
うん、たまにはいいよね、同級生とご飯。
そういえば、奥さんしなくちゃ、ってばかり考えてたから、歓迎会、とか打ち上げ会とか、っていう決まったものしか出たことがなかった。
「大学生活も楽しめよ」堂上はそう言ってくれてた。篤さんずっといないし、うまく話しもできない。少しこうして一人でいろいろしてみるのも、いいのかもしれない。
でも、この二人にできた距離はどうすればいいのか?
郁は泣きだしたい気持ちを抑えて、講義に集中することにした。


 


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(from 20121011)