+ Delay in Love 10 +      堂郁上官部下期間(稲嶺誘拐後あたり)  ◆激しく原作逸脱注意+オリキャラあり◆

 

 

 

 

郁が異動した準基地は駅から路線バスで15分ほどの県立公園の横にあった。
逃げられても困るから、と柴崎は訪問することは郁には全く知らせなかったらしい。

駅前であいつが好きそうなケーキをいくつか見繕ってからバスに乗りこんだ。
あったらあいつはどんな顔をするのか、お久しぶりですね、と屈託のない笑顔をむけてくれるのか、と頭を巡らせていた。

プライベートなので通用門は通らず、一般入場者と同じ場所から準基地内に入った。
公園続きなので、それに似たような雰囲気で、正面に噴水がありその先に図書館の入り口があった。
業務部だというのだから、図書館で居場所を聞くのがいい。

『総合案内』も設けられていたが、これは図書館と併設の市民ホールの両方の案内だとわかったので、そちらではなく直接貸し出しカウンターへと柴崎は出向いた。
「あの、こちらにお勤めの笠原郁さんにお会いしたいのですが、柴崎と申します」
「笠原ですね、ええ、館内におりますからちょっとお待ち下さい」
「いえ、どちらにいらっしゃるか判れば出向きます」
「そうですか、今は児童ルームで本の読み聞かせをしてますね、でももうすぐ終わると思います、お昼ですから」
そういわれて、左手の奥を示された。そっちに児童ルームがあるのだろう。
ルームとは言っていたが、大きな一枚硝子で区切られている子供用の絵本が置かれているスペースだった。
その広場のようなところで郁が優しい声で読み聞かせをしているのが遠くから聞こえてきた。

「さあ今日はここまで。また来週ね」
「郁ちゃんさようならー」
「郁ちゃんまたねー」
子ども達に郁ちゃんと呼ばれ、人気があるのはこちらでも変わらないらしい。
一通り遊びに来ていた親子がいなくなったところで、郁は散らばっていた絵本を片付け始めた。

「笠原」
聞き覚えのある声がして郁はすぐに顔を上げた。
「・・・柴崎!?」
そしてその隣に立っていた人の顔をみて、郁はすぐに顔色を変えた。
「どうじょう・・・きょうかん・・・」
郁は驚きのあまり言葉を失ったが、すぐに自分の格好を見下ろした。
妊婦服だったのだ、それも見てすぐ判るワンピース型の。

郁はすぐ二人から目を背けてその場から走って逃げだそうとした。だが、絨毯敷きで靴も履いていなかったし、今は全力疾走できる体ではなかった。
そしてそれを察した堂上が郁の手首を掴んでいた。
「逃げるな」
その一言で郁は観念して、その場に立ちつくした。






◆◇◆







郁が久々の再会でフリーズしていた頃、東京から人が尋ねてきたらしい、と噂がすぐに広まったらしく上官である笹間一正が児童ルームまで出向いてきた。
「笠原さん」
「笹間一正」
郁は上官に会釈した。図書館内では敬礼はしない、というのは随分前に身につけていた。

「こちらは関東図書基地の堂上二正と柴崎一士です。堂上二正は元上官で、柴崎一士は元同期です」
「初めまして、笹間です。笠原一士は私の部下です」
「笠原がお世話になっています」
「いえ、笠原はお世話になっていたかもしれませんが、今はこの基地の隊員ですよ、堂上二正」
「・・・そうでした。失礼しました」
もう笠原は武蔵野の人間じゃないとはっきりと言われた事で、堂上は頭を一発殴られたような気分になった。

「笠原もちょうど休憩時間ですから、せっかくですから一緒にお昼でも」
「笹間一正」
「はい」
「突然の訪問で本当に申し訳ありませんが、笠原に大事な話があります。できましたら半休をとらせていただけないでしょうか?」
「それほど大事な話ですか?」
「はい」
真剣な面持ちで堂上は笹間に頭を下げた。
「いえ笹間一正、まだ今日の業務も残っていますしからお昼だけで結構です」
「笠原。ちゃんと話をしてらっしゃい、それとも私も同席した方が良い?」
「いえ・・・大丈夫です。それには及びません」
こんな日が来るかもしれない、と考えなかったわけではない。
「それほど利用者が多い日でもないし、今日はこのまま上がって良いわ、日報は明日一番で出して」
「ありがとうごさいます・・・」
その場に背を向けて立ち去る笹間の後ろ姿には、彼女が郁にいわんとすることが滲んでいたような気がしていた。

ここまできたら、きちんと最後まで------------ありのままを話すしかないんだと。

こんな日が、こんな時が来るを、どこかで予想していた。その事から目を背けて日々暮らしていただけな事も自覚していた。
来て欲しい気持も、来て欲しくない気持も、郁の本心だった。
でも、自分がどうしたいかは決まっているから。

大丈夫だよねあたし、と自分の決心に心の中で話しかけた。だって今はもう一人じゃないから--------そんな気持を込めて、二人には分からないようにそっとお腹を撫でた。



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(from 20130506)