+ おくさまは18歳 4 +  パラレルSS/のりのりのターン

 

 

 

 

 

郁から買い物袋を1つ奪って足早に官舎の階段を上る。片方の手は郁の手首を掴んだままだ。
部屋の鍵を開け、郁に先に上がるように促す。
「・・・ただいま」
郁は部屋に明かりが灯っていなくても必ず「ただいま」を言う。さっきまで掴まれていた手首の痛みで堂上の不機嫌が伺え・・・つい小声になってしまった。
扉が閉まり、堂上が玄関先に買い物袋を置いた。

「・・・おかえり、郁」
怒ってる?と心配しながら器用な上目遣いで覗いたその表情は、穏やかないつもの優しい篤の顔だった。
「・・・ただいま、篤さん」
郁はホッとして、堂上の背中へ腕を伸ばした。
そのまま抱きしめられ、唇が重なる。
触れるキスが、いつもよりずっと長い。そして角度を変えながらお互いの唇を啄むように触れ続ける。
郁を抱きしめていた掌がゆっくりと郁の背中を撫で始めた。その間も長いキスが続く。

「あ・・・あつし、さん・・・く、くるしい・・・」
「・・・・・一週間分だ」
堪能させろ。

撫でられた背中が気持ちいい。キスの長さが堂上の気持ちを伝えてくる。郁の心臓のドキドキは止まらなかった。





二人で一緒に焼肉の準備をして、購入したばかりのホットプレートを出した。
「おうちで焼肉もいいですね」
野菜切るだけだから失敗しないし!と郁が笑う。
「一人で食事、食べてたんですか?」
「ああ、たまには小牧たちの部屋に行って飲んだりもしてた」
「ならよかった、この部屋に一人じゃ寂しいですよね」


だいぶお腹がふくれあがったころ、堂上が郁に訊いた。
「郁、さっきの・・・」
「さっきの?」
「呼び名なんだが・・・」
郁はきょとんとする。・・・あっ!
「・・・あっちゃん?」
「・・・なんとかならんのか・・・?」
本当の妹にもそんな風に呼ばれたことはない。

兄妹であれば、篤兄ちゃん、位がちょうど良いのだろう。だが、他人から「お兄さん」と言われる分には仕方ないと思えたけど、自分からは「兄」という言葉は使いたくなかった。嘘をついているといえど。
「・・・いや?」
「いやと言うか・・・」
きっと小牧はあの後笑い上戸に入って、あっちの世界にでも行ったことだろう。
「でも他にいい呼び方が浮かばなくて!・・・なるべく、呼ばないようにするね」
かといって、郁が本当の妹の静佳のように「兄貴」と呼ぶのは想像がつかない。
「ああ、頼む」
柔らかい髪色の郁の頭に、堂上の掌はぽんっと乗った。
それが何よりも嬉しくて、郁は満面の笑みを堂上に向けた。



食器の片付けと荷物ほどきを2人は分担して終えた。
食後のお茶を飲みながら、郁の研修合宿の話を聞く。
訊けば、遊び要素は少なく、なかなかハードだったらしい。
「自由時間が少ないから、外にランニングしにいくことも出来なくて・・・」
完全にトレーニング不足だーと嘆く。本当は夜走ろうと思ってたのに、と言う。
冗談じゃない、夜に女が1人でランニングなんて!
誰が寄ってくるかわからない。むしろハードスケジュールでよかった、と堂上は思ったが当然口にはしなかった。
「じゃあ、明日から早朝に一緒に走るか?」
「本当?!篤さん、お仕事前に大丈夫なの?」
「ああ、30分ぐらいならな。その代わりちゃんと起きろよ」
「うん、ありがとう」
嬉しくて、郁は堂上の腕にしがみついた。

「早朝デートができるね」
ランニングがデートなのか、俺の奥さんは可愛いこと言う。
「じゃあ、今日は早く寝るか」
「うん、一緒に寝るの、久しぶりだね」
郁の一言はそのままの意味だとわかっている。
新婚だというのに、子どもの添い寝よろしく、だ。
それでも、好きな女を抱きしめて眠れる幸せが、今の俺にはある。
郁の顔を覗き込み、再びやわらかい唇にキスを落とした。

 

 

 

 

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(from 20120906)