+ 偽装デート after +  SS偽装デート その後(革命時期)

 

 

 

 

 

 

「どうだった?良化隊の尾行」
小牧の投げかけが先日の稲嶺邸警備のために、バディの笠原とデートを装って基地を出たときの事を差しているとすぐに判った。
「ああ、立川で昼飯食ってたら消えてた。公休に見えたんだろう」
「逆にその時点までは尾行ついてたんだ」
そうだ、デートに見せかけて基地を出ても、尾行はついてきた。やはり警備の交代も気が抜けないと改めて実感した。
「じゃあ次は即映画館にでも向かったらすぐいなくなるんじゃない?あ、女の子の服を買いに行くとかもいいよねー、だってむさい男が尾行してたら目立つから、すぐ退散しそうじゃない?ま、二人で指輪でも観に行ったら即いなくなるよ、きっと、あ・・・はっ・・・くっ.く・・・」
「・・・・・・・」
自分で言って上戸に入っていれば世話がない、いつもの事ながら。たしかに、偽装デート作戦はこれからも必要だろうな、と思う。
「よ、よかったね・・・、激務の間に楽しみが出来てさ」
「馬鹿言うな、あくまでも任務の一環だろう」
そう言い捨てて缶ビールを一気に煽る。
「ま、十分基地内でもバカップルが伝わりそうだし、虫除けの意味でもいいんじゃないの?」
昔の俺なら、「あいつが好きな奴に悪いだろう」とでも言って返したかもしれない。だが、随分前に「王子様卒業宣言」も受けたし、俺が固く掛けていた蓋も吹っ飛ばされた今、いくら小牧が相手でももうそこまでごまかしたりはしない、おそらくバレバレだから。
「あー、でも生殺しでもあるかー」
「何がだ?!」
「いや、別にー」
妙に感のよい親友がいるのも、便利なようでやっかいだと心の中で毒気づく。
「毎回電車移動な訳じゃないからな。それに・・・・・」
正直、何ヶ月もは当麻先生が稲嶺邸にいることは隠し通せない気がしていた。隊内でははっきりと公言しているわけではないが、風の噂程度で「当麻先生は都内近郊のホテルを転々としている」らしい、と言うことにしてある。
口に出した訳じゃないが、小牧も俺が思っていることがわかったらしく・・・
「そうだね。まあ、あまり長くは無いかな」
その時の覚悟はできているらしい。
なにせ、当麻蔵人は今回のいわゆる「作家狩り」に通じる検閲闘争の要だから、なんとしても良化隊の手に渡す訳にはいかない。

「ま、あと何回偽装デートできるか、だから存分に楽しんで。って早くホントのデートにすればいいのに」
あ、フライングには気をつけてね。
「アホか貴様!」





◆◇◆





良化隊をごまかすための「偽装デート」をして警備に向かった日から一週間ちょっと。
また「電車で移動予定」の指示が来た。
「うーん・・・・・・」
郁はクローゼットの扉を全開にして、女の子らしい服のコーディネートに頭を悩ましていた。
「何、またデート?」
「デートじゃないっ!任務!」
「でも任務に着く前は甘いデートなんでしょー」
柴崎は公休前日だから、と缶酎ハイを嗜みながら悩み抜いている郁の様子をみて楽しそうにしていた。
「単なる偽装デートですっ!」
いくつか引っ張り出した服をベッドの上に広げて合わせてみる。まあ、コート着るんだからそんなにこだわらなくてもいいといえばそうなんだけど。
「でもさぁ、あれよね、良化隊が基地外で見張っている間は、二人で出るときはずっとデート仕様にしてなきゃおかしいわよねぇ」
「へ?」
「だって、この前はバカップル仕様だったのに、次の時にしれっと上官部下の距離だったら、すぐバレるじゃない?その上スーツで出かけたら仕事ですって言っているようなものだしー」
「うん、まあ・・・」
「だから、警備がある以上はずっとバカップル仕様じゃないと変でしょ?じゃあ、あたしの公休に半休とか合わせられるときがあったらデート服買いに行こっか!」
「ええっ!?い、いらないよ、今だけだしっ!」
「でも現実悩んでるじゃない!ワードローブ引っ張り出して」
だって、スカート仕様のものが少ないんだもん・・・・・と、口に出してしまえば、デート仕様の服がもっと欲しい、とバラしているようなもので。
あくまでも任務につくための「偽装デート」なのに、女の子服新調しました!なんてもしバレたら恥ずかしすぎるし!いや、教官にバレなくてもデートに期待しているとか、だだ漏れすぎて絶対「任務だ馬鹿!」とか怒られそうだし・・・・・・
そんな可愛らしい格好を選んでしまったら、本当のデートになったらなぁ、って夢みてしまいそうで。
あたしだけが、そんな気持ち募らせてしまったら、警備任務が終了してデートに偽装する必要じゃなくなったとき-------夢見た分だけ後が辛い。

「・・・・・・一緒に買い物には行きたいけど、デート服はいいよ・・・」
あんな甘い顔をしてくれる教官は、自分の知っている教官じゃ無いみたいで本当にドキドキする・・・。
もし万が一恋が叶ったら、教官が紡ぎ出す甘いささやきも、女の子扱いもあたしの為だけにしてくれるのかな?ってどこかで期待してしまう。
偽装じゃなくて、本気で向けられるその先にあたしがいる可能性、ってどれくらいなんだろう。誰にも渡したくない、って思っているのに、自分じゃない誰かに向けられるかもしれないっていう思いが消し去れない。
だって、戦闘職種の大女だし、恋愛にほど遠い体質というか、四半世紀だったというか・・・
甘い夢を見た後に玉砕の現実があったら、きっと偽装デートの為に買った服は、もう着れなくなっちゃうと思う。だから、今は、そのための服を買いたくない--------

「あたしは必要だと思うのになぁ」
柴崎は残念そうに言った。
「別にデート服じゃなくて、普通に服買いに行こうよ!買わなくても春物見に行くだけでも気分違うしね、でも近場しか行けないけど」
厳戒態勢なので公休でもそう遠くへは行けない。出向いても吉祥寺位だろう。
「まああんまり可愛らしく装い過ぎると、教官のベタ甘バカップル仕様がますますヒートアップしそうだもんね」
な、なにそれ?!な、なんで知ってるの?
「あら、基地内から偽装してたらそれなりには人の噂になるわよー。あたしは肯定も否定もしてないけど?」
人の目って恐ろしい・・・
「ひ、否定しといてよ!」
「いや、今このタイミングで否定はマズイでしょう」
「う・・・」
たしかに、カップル仕様にしているのに「付き合ってません!」宣言は拙いか・・・?いや、やっぱりそこは否定しておかないと、教官が好きな人とかに迷惑が・・・
「まだほんの一部だと思うけど?あんた注目の的だからね」
郁はホっと胸をなで下ろす。
「あ、でもバカップル仕様の甘い笑顔は基地内ではしない方がいいですよ、って教官に釘を刺しておかないとかも」
「なんで?」
「だってあの人、あのルックスなのにそれほど女の子が寄りつかないのは仏頂面がデフォルトだからよぉ。それなのに、基地内でうっかり眉間に皺のない笑顔をふりまかれちゃったらねぇ」
女の子達が黙っていない。そそそ、そうなんだっ・・・そうだよね・・・

この前は結局稲嶺邸の玄関に立つまで、偽装デート状態で手を取られたままだった。
だけど玄関に入ったとたん、しれっと上官の顔をして、警備の引き継ぎをすませたり、フクさんに買い物を頼まれたふりをして近所の巡回をしたりと、デートもどきはもうずっと前の事のように仕事の顔になっていた。
どきどきして翻弄されてたあたしは、なかなか切り替えができなくて、正直哨戒を頼まれて助かった、と思っていたくらいだから。

「ま、あんたの場合はデート自体に慣れてないんだから、今のうちに甘い顔の堂上教官に慣れて、心臓強くしておくことねー」
「いやっ、どうせ教官にメール打つなら、こ、これ以上甘くしてくれなくてもいいですから!って送っておいてー!」
でないと心臓持ちません!って。







fin

(from 20130412)