+ 久遠愛 +  紫ぶんこのぶんこさまのSS『初恋』の三次SS 革命期

 

 

 

 

 

瀕死の負傷をした教官を置いて、一筋の光を目指す旅をすることとなった当麻先生と

あたし。

希望を胸に抱きながら、同時に逃亡者のような虚無感がつきまとうのは否めなかっ

た。

 

緊張の糸を解す事無く突っ走って到着した高級ホテルのエグゼクティブラウンジ。

二度とこんな空間を味わうことはもう無いだろうに、何もかもが緊張と疲労とで掻き

消される。

チェックインの後、双方が順にシャワーを使い、十数時間も身にまとっていた緊張を

解した。

 

今なら泥のように眠れる。

そう思いながらツインのベッドに横たわったけど、その極度な疲労からか思うように

意識までもが沈まなかった。

そして合間合間に聞こえてきた、当麻先生の寝息に余計沈むべき意識が呼び覚まされ

た。

 

堂上教官は無事、病院へ搬送されただろうか。

弾は取り去られたか、出血はその後どのくらい続いたのか、手術は成功したのか。

そんな思いだけが頭の中をグルグルとまわる。

 

そして--------教官は長い眠りの底から帰還した?

 

眠れない意識の中で、教官が撃たれた瞬間と流れた血の色がフラッシュバックする

匂いは幸い雨で掻き消され、あたしの脳裏には記録されてなかった。

 

王子様を追い、やがて堂上教官を追い....

必死に縋ってきたその人はあたしが隣に立つことを、許してくれたのだろうか?認め

てくれたのだろうか?

走り続けた学生時代までもが脳裏に戻ってきた。

陸上のウエアで何本も短距離を走るあたしは、いつしか深緑の戦闘服を着ていた。

 

 

教官、どこ?

教官に追って欲しいのは、あの時のあたしじゃない。

高校生の制服も、陸上のウエアも、追いかけて欲しい訳じゃない。

 

もしあなたが追いかけているのは、あの時のあたしだとしたら。

あなたが追ってきて欲しいのは、あの時の三正じゃないならば。

 

あたしたちの人生(みち)はいつ交わり、その光の先を標すの?

 

「あたしは、いつでも、教官(あなた)を、探してました」

 

教官、今のあたしをみて。今のあたしを探して。

そしてあたしも、早くあなたの元へ行きたい。

 

 

県展警備の時に初めて気づいた恋情。

それまで恋だ愛だと騒いでいたあれはいったいなんだったのか?

ぶつける事も苦しく、あきらめる事も叶わない激情を、今あなたに打ち付けたいの

に。今、すぐにでも。

 

「教官.....無事でいて...」

いくつもの涙の筋が郁の枕を濡らした。

 

初めてで...きっと最後の恋情。

久遠なこの気持ちを、教官、あなたに、早く届けたい。

早く...目を覚まして。

あなたの、熱い眼差しであたしを--------見つめて。

 

 

 

 

 

 

fin

 

(from 20120917)