+ まるでおとぎ話のような +   カミツレデート(捏造注意):ひろさまからのリクエストSS

 

 

 

 

 

「案内料だ」といって、教官はさっさと支払いを済ませてしまった。

割り勘のつもりだったのに、さらりとそうされて事にあわてて「あたしもずっと教官とここに来るのたのしみだったし!」とうっかり自分の想いの一部を晒してしまった。

 

初めて叶う恋がこの人だったらいいのに、と乙女な思考が頭を過ぎるけど、過去の経験から恋愛はそんな理想のように展開するほど甘くないって解っている。

一度も想いを募らせた人に選ばれたことの無いあたしに、そんな都合のいい本やドラマで見るようなラブストーリーが都合良く訪れるわけない。

 

それでも、こうして好きな人と今二人で一緒に同じ時間を共有している、部下としてじゃなくてプライベートで。  

一生の思い出になるようにちゃんと心に刻みつけよう、そう想いながら、半歩先を歩く教官の背中を見ながら映画館に向かった。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

映画のストーリー以上にドキドキする時間をすごして映画館を後にした。

どちらが言い出すまでもなく自然と足は駅へと向う。

出入り口のから数十メートル歩いた先の横断歩道の前で二人は足を止めた。

 

待ち合わせして、ランチを食べてカミツレのお茶を飲んだ。

そして二人きりで映画を観た。

本当にデートみたいだな。

郁は今日自分に起こったことを振り返って、胸をきゅんっとさせた。

 

 

想いを寄せる男性とこんな風に過ごせるなんて、恋愛玉砕経験しか無いあたしからしたら夢のようだった。

でも、これから二人が向かう先は帰寮するための駅。

あたしにとって、人生初のデートもこれで終わりだ--------。

 

まるで魔法にかかっていた様だった、なんて言ったらきっと誰かに笑われるだろうな。

お前いったいいくつだ?戦闘職種の女のくせに魔法をかけられたお姫様なんてあり得ないだろう、って。

 

もうすぐ女の子みたいに扱って貰えたデートも終わってあたしに掛けられた魔法も解ける。

堂上教官の部下としての日常がやってくるだけ。

 

 

郁の斜め前を立つ堂上の肩越しに夕暮れの街並みを見る。

右折してきた車の流れがそろそろ切れて、信号が変わるな...

 

 

ぼんやりそう思っていたら、不意に右手を取られた。

郁のよく知っている大きくて暖かいその手に包まれて、郁の体内温度が急上昇した。

軽く引かれた手に抵抗して立ち止まっていたら「行くぞ」と声を掛けられた。

駅まで続く道がもうちょっと長かったらな...

なんて思っていたら、手を引かれた方は駅とは違う方向。

 

「行ってみたいところが在るんだ、いいか?」

郁は突然の出来事にどこへと問う声も出せず、コクリと頷いた。それを見て穏やかに笑うと、手を握ったまま駅から離れる方向に歩き始めた。

 

 

 

 

十数分歩いてたどり着いたのは国営の大きな公園。

たしか常時開放されているわけではなく、開園時間も決まっているはずだ。

そう思いながら堂上に続いて歩くと、綺麗な光のイルミネーションが見え始めた。

 

これを見に?

 

最近は冬の間ずっと綺麗なイルミネショーンをつけている場所も多くなったけれど、この公園はクリスマスまでなんじゃなかったかな?

「さっき駅のポスターみたら、まだやってる、って書いてあったんだ」

照れ隠しなのか、郁がだだ漏れだったのか、堂上はそう説明をつけた。そのまま券売機で入場券を2人分購入して中へ入った。

 

平日だしクリスマスシーズンでもないので人もまばらだが、水路沿いの木々に飾られた電球がずうっと続いていてとても幻想的で静かだった。

イルミネーションなんて駅前や商店街でも飾ってあったりするけど、やっぱりこうやって魅せる為に飾られた美しさ光の演出は格別に綺麗だった。

思わず乙女モードに入って目を見開き、うっとりとしたため息が漏れた。

 

 

ご飯と食べて、映画を観て、イルミーション見に来るとか、って本当に恋人同士みたいだ。

これは何のご褒美だろう?

想いを寄せる人に手を繋がれてたどり着いた公園。心に響く美しい光景。

 

思わず横に立つその人の横顔を少し斜め後ろからそおっと見つめる。

精悍な顔が柔らかい光に照らされて、いつも見る顔とは違った表情の堂上を映し出していた。

 

 

二人でゆっくりと歩き、奥へと進んだ。

水路を抜けると、いくつかの電飾オブジェが飾られていた。動物の形をしたものがほとんどだけど、馬車や車のように乗り物の形をしているオブジェもあって、そこで記念撮影をしている家族連れやカップルなども見受けられた。

 

「綺麗ですね。まさかイルミネーションまで見れると思わなかったです」

 

そこで初めて郁は嬉しさを口にした。

「ああそうだな」

それ以上語ることなく、二人はゆっくりと一つ一つの光のオブジェを見て回った。

 

 

 

一番奥らしきところまで来ると、先には真っ暗な公園が広がっていた。

この時間は封鎖している区画なんだろう。

戻りましょうか、少し寂しげに郁が掛けた声は堂上の低い声に掻き消された。

 

「笠原」

手を握られたまま横に立つ堂上から名を呼ばれてドキリとする。それはいつも部下として呼ばれる声と変わらないはずなのに。

郁を呼んだのに、堂上は郁の方を向かず、何故か前を向いたまま...その時ぎゅっと今までより強く手を握られた。

 

「...王子様を卒業して、お前は何処に辿り着くつもりだ?」

堂上の口からあんなに嫌っていた『王子様』という言葉を聞くとは思わず、驚きで郁は黙り込んでしまった。

すると不意に反対の手で肩を掴まれて、堂上の胸の中へぐっと引き寄せられて...

 

片手で抱きしめられた。もう片方の繋がれた手はそのままに。

「...ここに辿り着くつもりは無いか?」

それは優しく包まれながらも、郁の頭はぐっと手を添えられて、堂上の厚い胸へとぐいっと頬を寄せる形になった。

 

......堂上教官の鼓動があたしの耳に直接聞こえてくる。

 

寄せた頬から届く堂上の心音に合わせるかのように、郁の心臓の動きも加速してその音が大きくなっていく。

「...意味、解ってるのか?」

どうしていいか解らなくて、顔を見上げることもできなくて、郁は寄せられた自分の頭をぎゅっと堂上の胸に押しつけた。

「...こ、これからも...好きなときにこうしてもらっていいって事ですよね?」

そう口にしながらも、堂上の言い出したことが、まだ信じられない。

「ああ.....こういう事もだ」

背中に回されていた堂上の手が郁の顎に触れてぐっと引き上げた。すぐに乾いた唇が近づいてきて...郁のやわらかい唇に触れた。

触れたと思った瞬時で少し離れたが、すぐにまた塞がれた.....長い間。

 

初めてこの唇で受けるキスの感触。好きな人に与えられた、初めての感覚。

堂上にされるまま口を塞がれてしばらく.....暖かさを感じていたが、やがて苦しくなってトントンと堂上の胸をたたいた。

 

「...お前、鼻で呼吸くらいしろ」

そういうと郁の間近に置かれたままの精悍な顔が、優しい表情を浮かべた。

 

「...あ、あたし、堂上教官の事が好きです...王子様だったからじゃなくて、今の堂上教官が....大好きです.....」

何度も何度も、心の中でずっと繰り返されていた言葉を、郁は初めて口にした。

一瞬、堂上の目が見開かれた気がした。王子様の事を最初に口にしたのは堂上だったが、郁がそう宣言するとは思わなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

知ってたのかお前、王子様が誰なのか。

 

 

突然のカミングアウトに郁を抱き寄せたまま動揺してしまった。

 

堂上としてはいつから知っていたのか、と問いただしたかったがそんな事を口にするのも今更だな、と声にはしなかった。

お前があの時の女子高校生だったからだとか、俺が白馬の王子様だったとか、そんな事は今更だ。

 

お前が入隊してきて以来、二人で培ってきたものの方が重みが違う。

 

お前を好きだという俺の想いもそうだ、今の笠原郁だから、だと堂上は思った。

 

そしてお前には叶わないな、とも。

ずっと側に居た上官から好きだと告げるのは、郁にとって強制と思われるかもしれないとも思った。

狡い俺はそんな風にしかお前に気持ちを告げられない。

だからお前から「好きだ」とはっきり告げてくれた。

狡いと思うことなく、まっすぐに告げてくれた。それが何よりも嬉しかった。

 

 

「俺もだ」

一言だけをはっきり伝え、優しい表情を嬉しそうな顔に変えて、郁の顎を再び取った。

 

再び唇が重ねると離れることなく角度を変えながら唇を重ね続けた。長く、長く----------。

その唇は甘く危険な程に俺を夢中にさせた。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

唇が離れたことを惜しみながら、瞳を絡ませる。

どきどきが止まらず、自分の心臓の音ばかりが気になる。

あたしはどこか夢の国にでも入り込んでしまったのではないか?

好きな人とこんな風に過ごし、こんな幻想的なところで、好きだといい、俺もだと言われた。

 

 

本の中のおとぎ話以外にあり得ないよ!お、王子様から告白だもん!

 

「...夢みたい、とか言うなよ、郁」

 

そう呼ばれてまたぎゅっと抱きしめられた。

「明日からは、上官と部下で...そして恋人だからな」

「...は、はいっ...」

「これからはプライベートはなるべく空けておけよ」

は、はいっ?

 

「俺が全部独占するから、覚悟しておけ、郁」

 

ど、堂上教官って、こんな甘いこと言う人だった?

 

でも「郁」と掠れた低い声で呼ばれるのは心地よい。上官に呼ばれるのとは違う呼ばれ方に囚われてどきどきが加速しながらも、なぜかずっと前からそんな風にどこかでこの人に呼ばれていたのではないか、とふと頭を過ぎった。

常に命を本を守りたい気持ちを測りにかけながら勤める仕事だからこそ業務中は容赦ない。だけど、認めてくれたときの優しさも今のあたしは知っている。

その優しさの中に、こんな風な情愛も込められていたのはいったいいつからなんだろうか。

 

あたしはたぶん、この人に束縛されたいと思ってる。部下としてでなく、女としてもその横に立っていて良いというのであれば-------

 

「きょ、教官のプライベートも、あ、あたしに頂けるのですか?」

動揺して妙な敬語になっている。

 

夕暮れの中で堂上の表情を伺おうと上目遣いでそっと視線をむける。

目があったとたん、柔らかい表情を浮かべて郁の髪にそっと触れる。

「...ああ、そのために7年もため込んでた、とでも思っておけ」

 

な、何がいつから7年なんですか?!

撫でてもらえるのかと思った掌は、そのまま後頭部に置かれぎゅっと引きよせられた。また熱いキスで自由を奪われて問うことができずにただ堂上の想いだけが流れ込んでくる。

冷静で仏頂面がデフォルトな上官と、キスも初めての郁に激しい恋情をぶつけてくる一人の男。それが郁の中で重ねることができずただ、成されるままに流されている。

 

 

ようやく解放された時には、日が完全に沈んで公園の街灯とイルミネーションの光だけがあたりを照らしていた。

 

 

「冷えてきたな」

日が落ちたので急速にあたりの空気が寒さでしんしんとし始めた。

堂上の掌が前に移動して、郁の頬に触れた。キスが終わってもそんな風にされることにどきどきしたままだ。

 

「あ、あの、あたし.......」

勢いをつけるために、軽く息を吸い込む。

「しょ、初心者なのでっ、上級者向けのおつきあいは、も、もう少し時間をおいてからにしてもらえますかっ!?」

教官だってあたしの恋愛遍歴は知ってるとはずだけど、これ以上いろいろされたら、本当にあたしのささやかな胸は破裂してしまいそうだ。

言い切ったあと、おそるおそる上目遣いで堂上の表情を伺う。

一瞬仏頂面になったかと思いきや、吹き出しそうな様子ですこし広角を上げながらも楽しそうな顔をした教官に見つめられていた。

 

「大丈夫だ、お前の困るようなことはしない」

そうきっぱりと言って郁の手を再びとった。

「だけど独占したいから、わがままは言うぞ。今日はもう少し一緒に過ごしたい。だから夜も外飯でいいか?」

一緒に過ごしたい、と教官は言葉を選んだけど、このまますぐに帰寮したくないい、とは郁も思っていた。

 

もっと教官と一緒にいたい。

仕事で部下として横に立つ事も多いのに、そのほかの時間ももっと教官の側にいたい。

それが本当の恋愛なのかな。

 

「はい。寒いからあったかいもの食べたいです」

「じゃあ鍋だな、そうすると居酒屋が楽だがそれでいいか?」

「はい。だって鍋は寮で食べれないですからね」

夕飯の事考えてたら、急にお腹が空いたなぁ、なんて事もだだ漏れしたらしい。

「食べ物に関しては素直だな」

「え?他の事だって ...す、素直ですよ?」

いや、そんな事はないだろう。まあそういうお前だから、好きなんだけどな。

 

堂上はその一言は口にせず、取った郁の手と一緒に自分のポケットに突っ込んだ。二人の肩の距離がぐっと縮まり、少し触れる肩に温もりすら感じる気がした。

そのまま、二人並びながらぐるっと廻ってネオンがきらめく駅前のビル群の方へと再び足を向けた。

 

 

ずっと想い続けていた人に公私とも隣に立っていいと言われた。初めて想いが叶って熱いキスをされた。そんな初めてが重なった日。

郁は胸にずっとこのきらびやかな光景は残しておきたいなぁ、そう思いながら公園を後にした。

 

 

 

 

 

fin

(from 20121120)

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ひろさまからのリクエストは

 

『カミツレデートの時、もしあの呼び出し電話が映画を見に行った後だったら…?』

 

順調にいけ映画でも行ってば堂上が告白して…的な雰囲気だったかと思うのですが。

相当な先延ばしが入ってじれったーい期間を余儀なくされてしまったのでw。

堂上の予定通りいってたらどうなったかな~と。

何時どんなタイミングで告白したかとか、読んでみたいです。

 

 

ということで、実は堂郁の日にもカミツレデートで呼び出し無かったら...?SSの映画は見に行かないパターンを書いてしまってたので、少し時間をおかせてください、とはひろさまにお願いしていたのですが...まさかこんなに間が空くとは!と自分でもビックリというか反省というか...(苦笑)

 

 

そしてねつ造ありシチュとはいえ、書いていた私もこんなにベタ甘になるとは想像せず...

いや、最後までたっぷりベタ甘にしてやるー!SSとも言う、っていう感じです(笑)

 

はい、私としては、そろそろベタ甘じゃないのに行っておきたい!そしてパラレル浸っている自分をなんとかしたい!って所です(#^.^#)

まあ、これはこれで♪

 

 

こんなベタ甘でよければ、ひろさまのみお持ち帰り可ですー♪

お待たせして、ほんとスミマセンでした&待っていただいてありがとうございました(#^.^#)