+ Beginners 1 +  戦争時期

 

 

 

 

「お前、俺と付き合わないか」


図書隊に入隊して初めての良化隊との抗争、そして上官にこれでもか!というほどお説教を食らって身も心も疲れ果てていたところで、部隊内唯一の同期同僚がとんでもない一言を言い放った。



何のギャクよ!!あのツンツン頭ーーーっっ!!
クタクタの身体をひきずって帰寮したところで、結局、柴崎には隠し事など出来るはずもなく、ただおもしろいネタを与えるだけになった。

「試しにつきあってみる、っていう選択はないわけ?」
「す、好きでもない人とつきあうってそんな!」
だってつい最近まで目の敵にされてたのよ!
既に食堂はしまっていたため、コンビニ調達した夕飯のおにぎりに怒鳴った勢いのままかぶりつく。
疲れているっていうのに、なんであたし、混乱させられるような事態に落ちいってんの?!
そう思うと、なんだか無性に腹が立つ。


「でも、あんた、今まで自分から告白したらみんな玉砕だった、って言ってたけど、最初から両想いだ、なんてそうそうあると思う?他に好きな人がいるからつきあえない、っていうならともかく、大概最初はこの人なら良いかな?嫌いじゃないし、ぐらいから始まるんじゃないの?」
あんたみてると、ほんと飽きないわね~、なんと言っても同期内での一番の注目株だからね、あんたたち。これでしばらくは楽しめそうだわ~。
郁の反応お構いなしで、柴崎は容赦なく微笑む。


-------確かに。
お互い両想いだった、という友人カップルもいたけど、告られたんだぁー、ってまんざらでも無い様子でそのままつきあい始めた子も多かった。それで数年続いた子もいたし、1-2ヶ月であっさり別れてた子もいた。


「それとも他に好きな人がいるわけ?」
す、好きな人なんて------。
憧れた背中が脳裏をかすめる、でもそれは好き、というか....


「と、とりあえず、しばらく考えさせて、って言ったから!!!」
もう寝るっ、疲れたし!おやすみっ!!
と、郁は強引に布団に潜り込んで頭から毛布をかぶった。




◇◇◇



冷静に、慎重に。
翌日の堂上班は班全員で書庫内整理業務だった。
苦手な端末操作を間違ったらいけない、と思えば思うほど、自らのうっかり成分が顔を出す。

あっ-------。

操作を間違ったまま実行キーを押してしまった。やらかした事はわかっていたが、どう修正すればいいのかが思い出せない。
「ど、堂上教官....」
怒られるのを覚悟で、上官に助けを求める。が、一度教わった事は同期内で解決するのが与えられたルールだ。
「す、すみません、て、手塚に...聞きます...」
側を通った堂上のシャツをとっさにつかんで呼び止めたが、すみませんでした、と俯きながら手を離した。


手塚は普段と変わりなく無愛想なまま、郁の後方に立ちマウスを操作する。
ものの一分もかからないのに、郁には数十分にも感じる。



「--------返事、いつ聞ける?」
間違って実行した他館リクエストを取消ながら、郁の後ろに立った手塚が耳元でささやいた。
ちょっ...!!
冷静に、今度こそ一度で覚えなければ、と思っていたのに、そんな一言で頭が真っ白になって操作が覚えられない。
「...ごめ....」
「次の公休、空いているか?」
昨日の今日だし!!今すぐ結論なんて無理!!そんな思いで口を開いたところへ、手塚の言葉が重なった。
「...へ?」
公休、公休...明後日、か?
「予定がないなら、11時に寮のロビーな」
そう言い捨て、郁の都合も聞かずにその場を離れて自分の端末に戻っていった。
「ちょ!!...」
静まっていた室内で大声を張り上げそうになってあわてて口を噤んだ。
堂上と小牧の視線が郁に向けられる。
「どうした?」

「な、なんでも....ありません...」
「ならいい。業務に集中して同じミスを起こさないようにしろ」
「はい」

堂上に窘められた。
そうだ、苦手なパソコン業務だ。手塚の事なんて考えている場合じゃない。
郁は自分の両頬を掌でバチっと叩いて、気合いを入れ直した。

手塚、ってこんな強引な奴だったかな?

気合いを入れ直したはずなのに思考が再び女の子モードに戻ってしまったところで、昼休憩を言い渡された。
二手に別れて交代でとると指示され、手塚とは時間がずれたことに正直郁はホッとしていた。


 


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(from 20120613)